同一部位に障害が別時期に発生した場合の差引認定

これは社労士の中でも障害年金を専門に扱っている人でないと理解できていない、即答できないことのひとつにあげられるくらい複雑な認定方法です。

 

車椅子と障害年金

障害年金の勉強会でも時々、この差引認定で不合理な認定があるのだということは聞いていました。

この差引認定ですが、勉強会では理解するのですが、あまり事例がないこともあって、勉強会を終えて月日が経つと忘れがちになる部分でした。

差引認定とは何か

障害年金の対象とならない障害と同一部位に新たな障害が加わった場合には、現在の障害の程度から始めの障害の程度を差し引いて認定する方法です(初めて2級による年金に該当する場合の認定には行われない)。

 

現在ある障害の程度-前発障害の程度=後発障害の程度、という考え方です。これによって、前発障害は○級、後発障害は○級がわかるようになります。

 

身体の同一部位(眼、耳、肢体)に複数の障害が生じた場合は、前発障害と後発障害を切り分けることは困難なために、この考え方を採用しているのです。今ある障害の程度のうち、どれが最初の障害でこの程度の障害になったとか、後からの障害でこの程度になったとか混在していてわからないからですね。

ただし、同一部位の複数の障害が生じたとしても、その後発障害の程度が医学的に判断できる場合は、差引認定を行わない、ということになります。この場合は、後発障害の程度がわかるわけですから、等級が判断できるということです。

 

しかし、このように文字だけではわかりにくい概念ですよね。

障害の程度は、障害の発生した年月によって、その時に障害の程度を認定するものなので、「今、このような障害」だからと、今の状態だけで障害年金支給をするための判断することができないのです。

差引認定の必要性ー不公平をなくすために

それはなぜかと言うと、保険料未納で最初の障害は認定されなかったが、後発障害があったために今回の状態だけで判断され、障害年金がもらえたということになってしまうことがあげられます。ただし、後発の障害が起こってからは保険料などの要件がすべて満たされていたという例の場合です。

 

この場合、「現在の障害」だけで判断してしまうと、最初の前発障害も含んだ障害の程度になってしまいます。前発障害は保険料未納で年金支給の対象になっていなかったのですから、それを差し引いた障害の程度に対しては年金を支払うのが妥当です。そうでないと、2度障害が発生したら、最初の障害で障害年金の要件が満たされていなくても現在の障害の重さで障害年金が支給されることになってしまうからです。

そうなりますと、真面目に年金保険料を払っていた人との間で不公平になってしまいます。

また、前発障害(国民年金加入中の事故)と後発障害(厚生年金保険に加入中の事故)と加入していた年金制度が違う場合も、全体をひとつとしてみる用法では適切な認定にならない(前発障害と後発障害の障害の程度を切り分ける必要)おそれがあるからです。

 

今回のヒアリングでもこの例として、前発障害は20歳前障害で国民年金の2級だった、現在は厚生年金保険に加入中で、障害の程度としては1級(ただし、前発障害プラス後発障害の結果)とされた場合の例があがっていました。この例では後発障害が厚生年金保険加入中だったために後発障害は3級と判断されれば厚生年金保険には3級まであるので、後発障害についても受給権が発生していたと判断がつきます。これが国民年金に加入中だったら、後発障害が3級だったら、国民年金の場合、1級と2級のみですから、3級の障害だったら受給権が発生しないということになります。それを除いて認定となるわけですね。

この認定方法では不合理性も指摘されていた

この差引認定では、現在の障害の程度に対応する「活動能力減退率」から、前発障害の程度に対応する「活動能力減退率」を引き算して、後発障害の活動能力減退率を求めます。

 

「現在」の具体的な数字は障害認定基準に載っています。日本年金機構のこちらのページの下部に差引認定のことが載っています(別表3現在の活動能力減退率及び前発障害の活動能力減退率と別表4差引結果認定表を参照)

国民年金・厚生年金保険 障害認定基準|日本年金機構

 

これを引き算して計算することで差引残存率から後発障害の程度が何級かわかります。

ただし、この数値には法令上の根拠がないため、実態に即していない場合も見受けられました。

 

私が聞いた中ではポストポリオ(ポリオ後症候群)の方に現在は1級の状態にありながら、差引認定の結果3級に認定されたケースが現実にあったようです。

車椅子生活で1級の現在の状況に対し、差引認定により3級になってしまったというような例では、審査請求しないといけなかったのです。

 

同様のことがニュースに書かれていました。

【ゆうゆうLife】重度になったのに減額 障害年金の不合理見直しへ – 産経ニュース

2016年12月15日付産経ニュースより引用

 

国の障害年金で、障害が重くなったのに支給額が減る不合理な仕組みがあることから、厚生労働省は是正に向け、制度を見直す方針を決めた。検討会を設けるなどして専門家の意見を聞き、具体策を決める考え。  

この問題をめぐっては、生まれつき両脚に障害のある大阪府内の男性が、交通事故で障害が最重度になったのに、支給額を減らされたとして昨年、国を提訴。厚労省は「制度を見直す考えはない」としていたが、国会で追及され、姿勢を転じた。  

この仕組みは「差し引き認定」と呼ばれ、体の同じ部位に別々の原因で障害を負った場合、最終的な状態から以前の障害を差し引き、2回目の障害の程度に基づき年金を支給する。  

大阪府の男性は、もともと障害基礎年金2級(月約6万5000円)を受給。会社員時代の事故で最重度の1級の状態になったが、差し引き認定により最も軽い障害厚生年金3級とされ、支給額が月約4万9000円に減った。訴訟は係争中だが、国は誤りを認め、支給すべきだった約8年分の約600万円を男性に支払った。

このように現状の障害をみると最重度の障害なので1級なのに、逆転といいますか、差引認定によって3級にされてしまったという例です。それも以前は2級の障害年金を受給していたのに、です。それがもっと悪化したのに、1級とならずに逆に、結果は3級に変わったのですから不合理なことは明らかです。

 

今回、報道もされたように国側も見直しをする予定になっています。

2017年6月9日付の毎日新聞の記事より引用

障害年金:今夏めどに「差し引き認定」見直し 厚労省 – 毎日新聞

 

厚生労働省は9日、障害が重くなったのに、障害年金の支給額が減るなど矛盾したケースが起きる「差し引き認定」の仕組みを見直すことを決めた。同日開かれた有識者会議で、別々の原因で同じ部位に障害を負った場合、現状の障害程度を等級に反映させる案を示し、了承された。日本年金機構に基準改正を通知後、今夏をめどに運用を開始する。(以下、略)

 

今のところ、専門家にヒアリングした時の審議会の資料がダウンロードできるようになっています。

障害年金の認定基準(差引認定)の見直しに関する専門家ヒアリング審議会資料 |厚生労働省

 

これが最終稿というわけではありませんが、動きは早くて、今年中、それもこの夏を目処に運用を開始する予定です。新しい認定基準(案)では、認定例も出てきまして、認定例1と認定例2の具体例があるので、考え方はわかりやすくなっているかと思います。上記のページでダウンロードすると見ることができます。

パブリックコメントを実施してから、障害認定基準改正の通知を発出したあと、改正後の差引認定が施行されます。

パブコメを経てから、となりますので、もし関心のある方がいらっしゃるようでしたら、パブコメの期間中に改正を予定された最終稿を見てから、意見を提出するといいですね。

 

【追記】

新たに障害が発生しているのに、重くなるのではなく、軽い等級になってしまっていたという事例が発生し、問題があった「差引認定」ですが、専門家の意見を入れて、平成29年9月1日から改正し適用することになりました。

日本年金機構のサイトには新しいものが掲載されていました。

国民年金・厚生年金保険 障害認定基準|日本年金機構

日本年金機構の差引認定が書いてある認定基準のPDF

http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-2-1.pdf

なお、今回の認定基準改正では、診断書様式の変更はありません。